GAME DIARY
「悪の日記 Pluto編」
ブリタニア。そこは、未だ神々が強い影響力を持つ世界。 神々の気まぐれによって、全ての価値観が変わりうる。 例えそれが、命の重みであっても。 異世界から来た者にとって、それは大変興味深いものであった。 ブリタニアは、さらにトランメルとフェルッカという二つの世界に分かれる。 二つの世界は鏡に映したかのように全く同じ地形をしているが、その性質は大きく異なる。 平和なトランメルに対し、フェルッカは暗殺者や盗賊が追いやられた殺伐とした世界だ。 当然、人々は安全なトランメルに移住し、フェルッカの人口は急激に減少した。 そんなフェルッカの状況を見かねてか、神は気まぐれを起こした。 人間の能力を向上させる「パワースクロール」をフェルッカの魔物だけに持たせ、トランメルの冒険者たちを呼び寄せた。 さらに神は、善良なトランメルからの冒険者の身の安全を約束した。フェルッカの迷宮で、殺人者や魔物の手にかかったとしても、所持品を何ひとつ失うことなく、主要な街の寺院へと転送されるようになった。 まさに至れり尽くせりとはこのこと。最初は懐疑的だったトランメルの冒険者たちも、一攫千金を夢見、こぞってフェルッカを訪れるようになった。 平和ボケした冒険者が、何を恐れることもなくフェルッカを平然と闊歩する。 トランメルに移ることなく、フェルッカの殺伐とした空気を愛し、住み続けていた者達からは溜息が漏れた。 だが、神の気まぐれには死角があった。 フェルッカサイド、首都ブリテン。 今ここに、殺伐としたフェルッカに相応しくない三人組が立っている。 今、まさにブリタニアに降り立ったばかりの非力な三人。 この厳しいフェルッカで、彼らごときが何をしようというのか。 そこへやがて、ナイトメアに乗った男が馬を連れて現れた。 三人のうちの一人である金髪の女が、手を振って男の名を呼んだ。 ![]() 「Lotus!」 男はナイトメアから降りると、片ひざをついて恭しく頭を下げた。
「Lotus、例のものを」 男は懐から巻物の束を取り出し、金髪の女に手渡した。
「布製のスクロール…。珍しいわね」 スクロールと馬を受け取った三人は、ブリテンのヒーラー小屋へと移動した。 「あれを見て」 金髪の女はヒーラー小屋を指差した。ヒーラー小屋の窓からは眩い光が漏れている。 「あれは、蘇生の光。蘇生した獲物が外に出てくるのを待って。 但し、派閥の兵士や盗賊は狙っちゃ駄目。付きまとわれると面倒だから。 相手にするのは、お宝をたっぷり持った平和ボケの冒険者だけよ。…来るわっ」 金髪の女は、軽やかに小屋の入り口の死角へと移動し、呪文の詠唱を開始した。 呪文が獲物に気づかれれば、ポーション等で即座に回復されてしまうからだ。 「Vas Ort Flam」 目標の至近で大爆発を起こすExplosion。この魔法は発動から爆発まで、少々の間がある。 まず、獲物を攻撃する者は、呪文詠唱と同時に現場を離れなければならない。 蘇生直後の瀕死の標的を攻撃するのだから、詠唱者は間違いなく殺人者となり、 街の衛兵に殺される可能性がある。衛兵が現場に出現すれば、次の行動に影響が出るため、 できるだけ衛兵を現場から遠ざける必要があるのだ。そのための遅延攻撃魔法だ。 魔法を発動させた金髪の女は一目散に現場を離れた。 ついで、小屋の前で大爆発が起こった。 爆発の跡には、さきほど蘇生したばかりの冒険者の死体が転がっている。 すぐに残りの二人が動き出した。一人が冒険者の死体から荷物を根こそぎ奪う。 無論、善良な冒険者から荷物を奪えば、犯罪者として衛兵に殺されてしまうだろう。 荷物を奪う役目の人間は、衛兵を呼ばれる前に、できる限りの荷物を自分のバックパックに詰めなければならない。 「Guards!!!」 そこに居合わせた誰かが叫んだ。 いかずちと共に衛兵が現れ、犯罪者を一撃のもとに粉砕した。 犯罪者のバックパックから零れ落ちる盗品。 それを三人目が安全に手に入れるのだ。犯罪者の荷物を善良な人間が手にすることは、この世界では許容される行為なのである。 こうして、フェルッカの迷宮から転送された冒険者は、危険な迷宮で何一つ失わなかった所持品を、衛兵に守られた安全な街の中で全て失うことになるのである。 金髪の女たちは、銀行の金庫の口が閉まらなくなるまで、この行為を繰り返した。 仕事を終えた金髪の女は、二人と分かれ、馬に揺られながらのんびりと街道を歩いていた。 そこへ、先ほどのナイトメアの男が現れた。
「Lotus…。二人のお見送りはした?」
「Lotus…」 口の端から白い歯をわずかに覗かせると、二人は街道から掻き消すようにいなくなった。 このしばらく後、自らの過ちに気づいた神は、気まぐれを修正したと言われている。
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